厚生労働省が管轄する助成金は多岐に渡ります。正直多すぎて把握しきれないうえ名称は同じでもコースが枝分かれしていたり、コースが同じでも支給要件が変わることが頻繁にあり、前年度受給できたとしても同じ内容で申請したら本年度は不支給になってしまうこと等、実務上ざらにあります。
この助成金、財源はどこかというと雇用関係助成金というだけあり基本的に雇用保険料でまかなわれます。失業保険や育児休業給付金、高年齢雇用継続給付金等、失業者や従業員に対する保険給付の財源と思われる方が多いかもしれませんが、雇用保険料は社会保険料と異なり労使折半でなく事業主負担割合が高く設定されており、この事業主負担の上積み部分が助成金財源(雇用保険二事業部分等)となります。
本来は広く助成金をPRすべきなのですが、制度が複雑かつ改正が頻繁にあるうえ万一不支給となった時の責任問題もあり積極的に取り組んでいない社労士さんが多い印象です(都市部では助成金に特化した専門家もおられるようです)。
当事務所でもこれまで色々と助成金業務に取り組んできた中で、不支給要因が当方にある場合は賠償責任につながるような事例もあり、リスクヘッジの観点から恥ずかしながらあまり積極的に取り組まなかった案件ではあります。。
とはいえ、事業主負担の保険料が財源となっている助成金です。保険料は否応なしに徴収されるのに対して受給に関する情報は錯綜し複雑化している現状に歪さを感じますし、受給できる可能性がある助成金は保険料を負担している事業主の権利として活用すべきと考えます。
特に最近の物価高騰に端を発した最低賃金の引上げ幅は顕著であり、政府は2030年までに全国加重平均1,500円を目指すとしています。島根県も例外でなく今年はいよいよ大台の1,000円を突破することが予想され、何か使えそうな雇用関係助成金があれば積極的に活用したいところです。
キャリアアップ助成金 〜賃金規定等改定コース〜
事業場内最低賃金を3%以上引上げ、増額した%に応じて引上げた雇用保険被保険者数×1人あたり2.6万円〜となります。
県内最低賃金が改定される前から引上げれば良いため、最低賃金のパートアルバイトが多い事業所は積極的に申請すべき助成金と考えます。
例えば、中小企業で月所定労働時間が80時間のアルバイト(最低賃金962円の雇用保険被保険者)が50人いる事業所で地域別最低賃金が引上げられる1ヵ月前から事業場内最低賃金を1,005円に引上げたとします。
■賃金引上げ率
4%以上5%未満
■賃上げ1ヵ月前倒しによる増加人件費
80時間︎×50人×43円(1,005円-島根県最賃962円)=172,000円
■助成金額
50,000円×50人=2,500,000円
1ヵ月先んじて最賃を引き上げることで2,328,000円(2,500,000円-172,000円)の利益となります。仮に経常利益率10%の会社であれば2千万円超の売り上げと同等です。
上記の例では約170,000円、1ヵ月分前倒しで人件費は増えますが、いずれにせよ翌月からは法定最低賃金に引上げなければならず、ならば助成金申請を検討する価値はあります。
これは先日とある先輩の社労士先生から「事業所さん喜ばれるから案内した方がいいよ!」と教えていただき、はっとして気づいたことです。キャリアアップ助成金といえば正社員化コースにスポットが当たりがちですが、昇給・賞与・退職金条件の追加や重点支援対象者要件の追加による支給額の変更など、年々審査要件・支給内容ともに厳しくなっている印象です。その点、賃金規定等改定コースは特にコロナ禍以降の大幅な最賃引上げ率を鑑みると時代に即した助成金であるといえます。